拡大する事だけが成長ではない

今から約25年前の1998年、私トシ伊藤は地元の神奈川県川崎市で小さな居酒屋を始めました。

当時は3年後には2店舗目をオープンし、その後は1年毎に毎年1店舗づつ開店していくという様なイメージを抱いていました。

多店舗展開こそが飲食店経営の王道だと言う時代。

その私の考え方はアメリカに来て変わりました。

2006年、私がハワイに来て3年間働いた寿司居酒屋の大将の経営方針は”ちゃんとやる”でした。

毎日開店前から行列ができる程の人気店で、開店と同時に席は埋まり、閉店までお客さんが途切れる事は殆どありません。

当時の私の考えでは、お店がそれほど忙しいお店なら、そこから徒歩で行ける様なところに同じ店をもう1店舗作るのが当たり前だと思っていました。

何故、これだけ繁盛してもそれをしないのか?

ただ、知らないだけなのか?

それとも、資金がないのか?

どうもこの大将はその様な事でも無さそうです。

 

その店の大将は”そんな事をしたら全てのお客さんに挨拶が出来なくなるだろ”と言って多店舗展開の意欲は全くありません。

私にとっては全く理解できませんでしたが、僕にはいつも”席が開いたらすぐにテーブルを片付けて、外で待っているお客さんをテーブルにご案内して、お客さんが座ったらすぐに冷たいおしぼりと飲み物を持って行って、最初のオーダーは待たせずに素早く持っていけ”とだけ言います。

ちょっとでもお客さんを待たせると、口癖は”ちゃんとやれ”です。

ある日、その日は物凄く忙しく、私がお客さんがネギ抜きで頼まれたオーダーを確認せずに、そのままネギがのったまま出してしまった事がありました。

すぐに気づいて戻りましたが、お客さんはお店の忙しさに気を遣ってくれたのか、”いいよ、いいよ”って言って下さって、私も思わず忙しかったのでお客さんの言葉に甘えようとした瞬間、後ろから大将が”すいませーん、ネギ抜きお持ちしましたー”ってきました。

そして、その後私にいつもの”ちゃんとやらないとダメだよ”の一言。

ちょっとした事でも気を抜かない、これが簡単な様で一番難しい。

 

大将はいつもお店のカウンターの前にいて、お店に来るお客さん全員に日本語で”いらっしゃいませー”と必ずでかい声で言って迎え、帰る時には”ありがとうございましたー、テンキュー”と必ず言います。

これが自分の仕事だと言わんばかりに徹底しています。

 

こんな当たり前の様な事ですが、徹底してちゃんとやるという事へのこだわりは、どちらかと言いますと当時テキトーだった私には衝撃的でした。

数字を追って何が何でも利益を出す。

その為に徹底的にコストを抑えて無駄を省く。

そんな事を考えなくても、ちゃんとやる事で利益はついてくる。

多店舗化は考えない、一店舗でも徹底的にお客様の事を考え、それを追求していく事が成長するという考え方で、それで何十年も利益を出し続けている。

 

スケールする事だけが成長という資本主義の根本の考え方は、時に大きすぎる為に小回りが効かないという欠点もあります。

今のアメリカにはそんな企業が多い様にも思えます。

大きくなるだけが成長ではない。

スケールにこだわり過ぎず、中身の成長だけこだわる。

そうすれば、自然と利益はついてくる。

自分のキャパは越えない、自分のコントロールが効く範囲でスケールしていく事が一番心地が良い。

私は今ではこの考え方が好きです。